彼は10年前の微かな記憶を頼りにその場所へと向かっていた。あの日、あの夜、優と初めて出会ったペルセウス座流星群を二人で見たあの場所。様変わりしている風景の中、彼はその場所へ、確実に近づきつつあった。
(ここ、なのか?)
彼の目の前に徐々に見覚えのある景色が広がり、そして、彼が流星群を見ていた場所にやってきた頃には、辺りはあの時と同じように、夕闇に染まりつつあった。
(?)
その場所にはあの時とは違い、先客が居るようだ。しかもその先客は、一人ではなかった。
「あら…」
しばらくすると、女の人だろうと思われる人が彼の存在に気づき、近づいてきた。
「失礼ですが、あなたは…」
「えっ!」
彼が驚きの声を上げるのも無理はない。初対面だと思われる人から自分の名前を言われたからだ。彼が驚いていると、もう一人の先客も彼に近づき、
「驚かせてすいません。実は、優にここに居て欲しいと言ってたので…」
「えっ! じゃあ、あなた達は…」
そう言うと、二人は軽く会釈をした。その二人は、優の両親だった。
「いつも優がお世話になっています」
「は…、はい」
彼は驚きを隠せないながら、言葉を返した。
「ところで、優は何処に行ったか知りませんか? 連絡が取れないもので…」
「さぁ…、私たちには、『ここに居て欲しい』とだけ言われましたけど…」
「でも、君なら分かるんじゃないかな?」
「えっ…」
「多分優は、君がここに最初に来ると思って、私たちをここに居させたと思うよ。ここは君にとっても、優にとっても大切な場所だと思うからね。でも、もっと大切な場所があるんじゃないのかな? 私たちの知らない、君たちだけの秘密の場所が」
「秘密の場所…」
「優とあなたの思い出が、ここにはない何かがある場所が、あるんじゃないのかな?」
「あっ…」
「きっと、優はそこにいると思うよ。早く行ってあげて」
「ありがとう」
「そこに自転車を用意しておいたが、それで大丈夫か?」
「はい」
「じゃあ…。また近いうちに、日本に帰るかもしれないから、そのときはよろしくな」
「どうか優のこと、よろしくお願いします」
「分かりました」
「ふふっ。彼、いい目をしていたね」
「そうだな。俺達はあまり優に何もしてあげられなかったが、彼なら、きっと優を大事にしてくれるよ」
「そうね…」
彼の乗る自転車は、ライトを光らせる音と共に、急な下り坂を駆け下りていった。あの時、ただ必死に優の腰にしがみついていたで、実際、どこをどう行ったのか全く分からなかったが、彼は何かに導かれるかのように、その場所に近づいていた。やがて、闇に染まった瀬戸内海が姿を見せ、そして…、あの灯台は、あの日と変わらず光を放ち続けていた。
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