4月10日・終業後
入社してから1週半、少しずつ新しい環境に慣れ、同僚達の名前も少しずつ覚えてきた頃だった。
「越後部長は厳しいからな。新人だろうと気を抜くと、すぐ怒られるぞ」
「それは大変ですね」
「でも、彼の仕事はかなりの成果を挙げていることは確かだ。信頼も良いしな」
「それだけ部下を信頼していることなんじゃないの?」
「そういうこと。信頼しているからこそ、厳しく当たれるんだと思うよ」
信号待ちで三人が話している途中、ふと向こうの歩道を見てみると、
(あれ?)
そこには見慣れた彼女の姿があった。彼女は信号が青に変わっても横断歩道を渡らず、三人の正面に立っていた。
「やぁ」
横断歩道を渡り終えた彼にいつも通りの挨拶。表情には表れていないが、彼女はすごく嬉しそうだった。
「優…」
少し戸惑いながらも彼女の名前を呼ぶ。
「一緒に、帰ろう」
「うん」
彼女の優しい一言に、思わず二つ返事をしてしまった。
「じゃあ、すいません」
呆気にとられていた二人に挨拶して、彼女と一緒に帰った。
「ところで、どうしてここに」
「フッ…」
彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべて、
「キミに会えると思ったから…」
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