夕方
「はい。………、そうですか…。………、解りました」
「あっちゃー、何でこんな時に…」
受話器を置いた中山課長がこう言い残し、川口を呼んで席を立った。
「課長、どうしたんだろう?」
「そう言えば、午後一の電話でも困ったような顔してたような…」
「トラブルかな?」
「多分な」
正面の市川に思わず聞いたが、そう言えば午後から課長の様子がおかしかった。しばらくして、
「すまないが、ちょっと手を休めて聞いて欲しい」
課長と川口が戻ってきて、課長が話を切りだしてきた。
「…と言うわけで、申し上げないですが、明日予定のない人は手伝いに来て欲しい」
話はこうだった。月曜日、海外から届くはずの物品が天候不順により届かない可能性が出てきた。その取引先はすでに盆休みを終えており、来週は稼働しているので、とりあえず物品を国内の業者から手配することになったが、明日の午前中に届くと言うことで、直接搬入するために数名のヘルプが必要となった。
「力仕事だから、なるべく若いのが良いかな」
「えっ…」
課長の一言で決定。
終業後
「悪いな。せっかくの夏休みなのに…」
川口が巻き込んでしまった2人に帰りがけ、言葉をかける。
「いいですよ。明日は別に何もないですし」
「うん、まぁね…」
「どうした? 明日、予定あったか?」
川口が言葉を濁していた彼を気にしたが、
「い、いえ、大丈夫です」
「いいんだぞ、無理をしなくても。せっかくの夏休みなんだから」
「大丈夫です。明日、ちゃんと来ます」
少し表情が曇っていたが、川口にはっきりと答えた。彼が断り切れない理由は「新入社員」と言う、立場上の問題だけではなかった。川口が担当するその得意先は、彼が入社してから最初に向かった得意先でもあったからだ。
「そうか…、じゃあ、また明日な」
そう言って、川口は仕事に戻ろうとしたが、
「あっ、ちょっと待ってください」
「どうした?」
「有楽町線、まだ混んでます?」
彼の思わぬ質問に、川口は笑みを漏らし、
「今の時間なら、もう大丈夫だと思うよ。明日はもっと混むから、違う手段でここまで来た方がいいよ」
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