帰宅後

 

 (はぁ…、とは言っても、電話するのがちょっと辛いなぁ)

 自宅に帰って、ため息混じりに電話の前に向かう。

プルルルル… プルルルル…

 彼女が一人暮らししている家の電話番号を押し、しばらく待つ。その呼び出し音毎に、気持ちが重くなっていく。

ガチャ

「やぁ」

 受話器越しに聞こえるいつもの声。彼女の家の電話は電話番号通知型で、誰からの電話か判るようになっている。

 「あっ、優…」

「どうしたの?」

 たった一言だったが、優は彼氏の変調に気づいた。

 「実は…」

 

 

 「…だから、一人にしちゃって悪いんだけど、先に広島に帰っていてくれるかな?」

「うん…。解ったよ」

 優は残念がったが、彼の気持ちを理解して、言葉にした。

 「ゴメン、約束守れなくて」

「仕方がないよ。だけど…」

「…だけど、なるべく早く来てね。待ってるから」

 「うん、分かった」

「じゃあ…」

 「あっ、ちょっと待って」

「なに?」

 「両親は、東京には来ないの?」

 両親を東京に呼ぶことが出来なかったのか? それが出来れば、あの約束を破らずに済むんじゃないのか? 昼間の電話から彼はそう思っていたのだが、

「…そう言う話は聞かなかったけど、きっと、自宅に帰りたかったからじゃない?」

 「そう…」

 優はしばらくしてから素っ気なく答えた。

「じゃあ、明日。待っているからね」

 優の優しい言葉を残して、通話はとぎれた。

 

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