8月10日・朝

東京駅

 前日のアドバイスを受け、混んでいると思われる有楽町線を避けた。

 (本当だったら、優と一緒に広島に帰るんだったんだよなぁ…)

 新幹線口を見ながらため息をついて、彼は改札から出ていった。

 

 (えっと、月島行きのバスは…、八重洲口だな)

 バスの路線表を確認し、八重洲口の方に向かったが、

 (!?)

 そこには、驚くほどの長蛇の列があった。

 (なんなんだこれは。昨日といい今日といい…)

 またしても異質の行列の前に、しばらく硬直していたが、その場に居合わせていた目的のバスに乗り込み、その場を後にした。

 

 

月島

 会社に着いた彼を待っていたのは、中山課長と川口だった。

 「おはようございます」

 「おはよう」「おはよう」

 「今日はどうやって来たんだい?」

 興味深そうに川口が聞いてくる。

 「今日は東京駅からバスで…」

 「東京駅から? えらく混んでいただろ」

 東京駅から、と言うのを聞いて今度は課長が声をかける。

 「えっ、どうして分かるんですか?」

 「まぁ、今週は『特別』だからな」

 「なにせ以前はここら辺が大混雑だったからな」

 「おはようございまーす」

 その大混雑の話をしていると、遅れて市川がやってきた。

 「おはよう」「おはよう」「おはよう」

 「さーて、全員揃ったし、そろそろ行きますか」

 課長の一声で、一同は地下駐車場へ向かい、社用のライトバンに乗り込んだ。

 

車内

 「ところで、どこへ向かうんですか?」

 市川が後部座席から助手席にいる課長に問いかける。車は豊洲から東雲の方面へ向かっていた。

 「それがな、意外と近くにあったんだ」

 そう言って、道路地図を後ろに向け、

 「ここなんだよ」

 指を差したその先は…

 

その途中

 「おうおう、今年もすげー並んでいるな」

 東雲辺りから、渋滞で車の進みが悪くなってきた。国道357号の測道に入りしばらくして、駐車場らしき場所にたくさんの人だかりが出来ていた。

 「な、なんですか。これは…」

 ぱっと見だけでも千単位の人数ではなかった。それどころか、この駐車場に向かっていると思われる人の列が、絶え間なく続いていた。

 「ここって確か、10万人以上集めてコンサートをやったところですよね?」

 「ああ、そうだったな」

 市川の質問に軽く答えたのは、運転している川口だった。

 「昨日君が乗ってきた有楽町線の人も、今日東京駅でバスを待っていた人も、全員ここに集まってきているのさ」

 課長がこう言うものの、想像を超える光景を目にした彼は絶句した。

 

 

倉庫前

 「結構時間かかっちゃいましたね」

 「そうだな。通行止めがあったとはいえ、今週末の混み方は半端じゃないな」

 「『お台場どっと混む』だな」

 軽い冗談を交わしながら、倉庫の前に降り立った。課長と川口が相手先の担当としばらく話し、川口が残っている二人の所へ戻ってきた。

 「どうやら11時くらいに物が届くみたいだ。今日の混雑ぶりを考えると遅れる可能性があるから、二人でおにぎりと、飲み物でも買ってきてくれないか」

 そう言って、二千円札と車のキーを渡した。

 「あの建物の1階にコンビニがあるから、そこで買ってきて」

 指を差した先にあったのは、建物の真ん中が空いている独特な形をしたビル、テレコムセンタービルだった。

 「領収書忘れるなよ」

 

テレコムセンタービル

 「なぁ」

 (?)

 「お前、今日仕事終わったらどうする?」

 「…ちょっと、約束があるから」

 「それは、昨日から決まっていただろ」

 「えっ…」

 

Next

Index