「到着〜」
そう言って車を止める課長。
「えっ…」
彼の目の前にあったのは、歴史と風格を感じる赤煉瓦造りの建物。東京駅だった。
「さーて、問題だ。今日お前は朝寝坊し、今ようやく東京駅に着いた。今日から夏休み、仕事のことを考えなくて良いとなると、お前は何処へ行くべきだ?」
彼はいきなり、課長に問いつめられた。彼が言葉を詰まらせていると、
「仕事が大切なのは分かるが、君にはもっと大切のもがあるんじゃないかな?」
「課長、それに川口さんまで…」
「つまり君は、『振り出し』に戻ったって訳だ。朝、東京駅に来たときに、お前が行きたいと思った場所に行けばいいんじゃないかな」
「市川、お前…」
多分市川が告げ口しているというのは、彼は分かっていた。でも、この好意に応えるには、
「ありがとう。みんな」
そう言って、彼は車から降りた。
「休日手当はちゃんと出しておくからな」
課長の一言に、彼は首を縦に振り、彼の旅の『振り出し』、東京駅丸の内口へと消えていった。
「『振り出しに戻る』で喜んだ人、初めて見たな」
「はははっ、確かにそうだな。でも、いい顔してたぜ」
「それより、Yシャツに革靴で大丈夫かな?」
「まぁ、なんとかなるだろ。それより俺達は、宴会の準備だ」
3人になった車は、一路、会社へ向け東京駅前を出発した。
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