東京駅場内

 「ほーら。置いていくぞ、耕平」

 「ま、待ってくださいよ」

 夏休みと言うこともあり、新幹線のコンコースはいつも以上の人で賑わいを見せていた。とはいえ、午前中の帰省ラッシュは過ぎ去ったか、一時期の混雑はなくなり、新幹線に乗るだけなら、若干の余裕が見られるようになった。

 「まもなく、15番線に、ひかり217号、新大阪行きが到着します」

 場内放送が鳴り響くと、5年前、何度となく乗った新幹線が徐々に姿を現した。

 (優、ゴメン。一人にしちゃって。でも待ってて。今行くから)

 彼と、彼の思いを載せた新幹線は、東京駅を後にした。

 

 

 

広島駅

(フッ…、変わってないね。この町も、この空も、…私の思いも。必ず、来てくれるよね。あの場所に)

 

 

 

新大阪駅場内

 新大阪に着いた彼は、広島へ向かう新幹線の待ち合わせをしていた。外は少し雨が降っており、空気は湿っているものの、夏の暑さをしのぐにはいい具合だった。

 「まもなく、21番線に、ひかりレールスター、383号、博多行きが到着します」

 (そう言えば、これに乗るのは初めてだな)

 白地に紺と黄色のラインが走った独特のカラーリング。8両編成のひかりレールスターは2年前から運行を始めた新型だ。

 そして、彼の逸る気持ちが、広島へと急がせる。

 

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