広島駅

 イルミネーションが光り始め、濡れたアスファルトにそれが反射する。彼は4年半ぶりに広島の地に降り立った。

 「あまり、変わってないな」

 彼の第一声もまた、あの時と変わらない広島の姿を見ての感想だった。

 「さて、着いたし優に電話しないとな」

 (082―…)

 携帯電話を取り出し、優の電話番号を入力する。この電話番号にも4年半ぶりにかけ、携帯電話に登録してはいなかったが、彼ははっきりとその番号を覚えていた。

プルルルル… プルルルル…

 しかし、何度呼び出し音を聞いても、その電話を取る人が居なかった。

 (あれ?)

 彼は電話番号を間違えたかと思い、携帯電話の画面を見るが、表示されていた電話番号に間違えはなかった。もう一度、彼は電話をするが、

プルルルル… プルルルル…

 (やっぱりダメだ)

 仕方なく携帯電話を畳み込んだ。

 (困ったなぁ…。携帯持たせてないし、これじゃ連絡取れないよ)

 出かけることが少なくなった優に、彼は携帯電話を持たせることをしなかった。恐らく優も、持つ気はなかったと思われるが…。

 (でも待てよ…)

 ふと彼は、優の言葉を思い出した。

(「待っているからね」)

 優はどこかで待っているかも知れない。確証はもてないが、彼には何となくそんな気がした。

 (待っている場所…、あっ)

 彼はその足を、約束の場所へ向け、進め始めた。

 

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