「優!」

 自転車を降りた彼が砂浜に降り立ち、静寂を破るかのように彼女の名前を叫んだ。しかし、優は彼の方に振り向かず、じっと夜空を見上げていた。

 「優」

 優のすぐ後ろまで行った彼は、思わず後ろから抱きしめた。

「フッ…、来てくれたんだね」

 「ゴメン、優を一人にさせるようなことしちゃって」

「いいんだよ。キミがこうして、ここに来てくれたから…」

 彼の存在を確認した優は、ようやく彼に顔を向けた。それからしばらくして、

「行こう」

 「うん」

 そう言って、二人は歩き始めた。あの日と同じ、素足になって。

 

 

「ねぇ」

 「なに?」

「キミと、初めてここに来たとき、キミはなかなか、私から離れられなかったよね」

 「うん」

「あれは、私がスピードを出し過ぎちゃって、怖かったのかな? それとも…」

 「?」

「…それとも、あの時からキミは、私から離れたくなかったのかな?」

 

 「あの時から、優の側を離れたくなかったのかもしれない。10年前は、それに気づいてなかったんだと思う。でも、今は違う」

「あっ…」

 「優から離れようなんて、今は考えられない。いや、考えたくない…」

「フッ…」

 

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